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当事者から県会議員宛に送った手紙


Q.11月に入っても、川崎市のヘルパー制度・地域生活支援事業の大きな混乱が続いています。当事者や家族の方々はもちろん、どの事業所もそれこそ「こんなときどうすればいいの?」という状態です。

今回は、いつものQ&A方式ではなく、身体障害当事者の佐藤紀喜さんが県会議員あてに送った手紙をご紹介します。現場でいま何が起こっているのか。耳をすませてみて下さい。


A.私は川崎市在住の四肢麻痺(頸随損傷)の障害者です。10月から本格施行となった障害者自立支援法の実情を知っていただき、川崎市の障害福祉に対する取組が改善されるよう、働きかけていただけるよう、お願い申し上げます。

 

川崎市からの制度案内を見ると、あたかも障害者の暮らしが良くなるように見えます。しかし、実際に生じているのは報道等でも指摘されているとおり、福祉の逆行および格差の拡大です。

川崎市はなぜか当事者や事業所の声を施策に反映させようとせず、かたくななまでに制度変更を貫く姿勢を取っています。

県内でもほかの地域では助成等で前制度サービスを維持できるよう努力している、と聞きます。

このままなし崩しで川崎市のやり方が通ってしまうと、雪崩現象のように、他の自治体も右にならえとなる恐れが濃厚です。川崎市長、市議にも同様の要望はしておりますが、市のみの問題ではすまされません。

 

(1)  サービス一割負担

 

私自身は現在一般就労しておりますが、膀胱・直腸機能障害があるため、排便に訪問看護の利用が必要です。そのため訪問看護を受ける日を休職し、やむを得ず週3日勤務にしています。

 

新制度ではサービス利用が原則1割の負担となりました。負担上限額の設定もされていますが、決して楽ではありません。

負担分に見合ったサービスの安定確保と質の向上が見込めるならまだ納得もできますが、実際は事業所に下りる単価が大きく下がるため、サービス維持の保障もなく、質も下がる危険性が高いでしょう。

しかも、足りないサービスはボランティアで行え、という市の姿勢は、到底納得できるものではありません。

 

普通に暮らして働いてゆける環境をつくっていただければ、給与もとれ、負担もはらえ、納税者にもなり得ます。やみくもに負担がいやだと言っている訳ではないのです。払える状況下にあれば払います。

もちろん、障害が原因で就労不能な方もいるでしょうし、障害者年金のみで暮らしている方もいるでしょう。

15,000円や37,200円くらい大したことはない、と思われるかもしれませんが、障害者の所得状況からすれば、非常に大きい負担なのです。


透明性のみを求め一律に一割負担というのは、障害者の自立とはかけ離れたものではないでしょうか?

 

(2)障害区分とサービス

 

新制度では、障害の度合いにより区分認定をし、サービスを提供することになっています。

たとえば在宅で一人暮らしの重度障害者などはサービス量が必然的に長時間になりますが、これには「重度訪問介護」という分類でサービス提供が行われます。川崎市では、この重度訪問介護の乱用が目立ちます。


サービス内容は全く同じでも、事業所に入る単価は大きく異なり、特に1時間だけの朝ケアや夜ケアの場合、単価は半分以下になり(4000円→1600円)、ヘルパーを派遣すればするほど赤が出ます。

利用者にとっては1割負担の分が減るからいいだろう、と思われがちですが、単純にそうは言えず、事業所がこの単価でサービスを継続的に提供していくことは不可能です。

サービスをやめてしまえば利用者が困窮するのでやむを得ず継続するけれども、新規の依頼を受ける体力は残っていないし、しかもサービスを提供しつづければ事業所はつぶれかねない、というのがヘルパー事業所の現実です。

このままでは、サービスを十分に提供できる事業所がなくなり、最終的に困るのは私たち障害当事者です。ヘルパーを生業として生活できる基盤を作っていかなければ、障害者の安心・安定した在宅生活は確保されません。

 

(3)移動支援

 

川崎市の新制度では、移動支援を「社会参加のため」と「余暇活動のため」に分けており、かつ5時間以上の外出はボランタリーで行う(ヘルパー事業所は5時間以上サービスを提供しても別に構わないが、その分の単価は支払わない)、となっております。

まず、障害者の外出を、社会参加と余暇活動に分ける根拠がわかりません。その根拠は何でしょうか?

また、「5時間以上はボランタリー」という制度設計をしたということは、「5時間以上の外出保障はしない」ということです。

事業所の時間単価も大幅に下がったうえ、社会参加と余暇活動でなお単価に差をつけ、とどめのように5時間制限です。多くの事業所が撤退せざるをえない状況です。


また5時間を超えると突然ボランティアに変わるなどという事業形態はありえません。

結局5時間以上の外出支援を行える事業所は皆無となり、障害者は5時間以上出かけたければボランティアを探せ、ということになります。

 

(4)当事者向け(個人対象)説明会開催の希望について

 

10月よりの障害者自立支援法の具体的施行に伴い、利用案内のパンフレットが届きましたが、これだけで制度を理解および活用しろというのは、無理があります。当事者向けの説明会がないのは何故でしょうか?

事業所向け説明会が開かれて、当事者向けの説明会がなされない。このような事態があり得るのでしょうか? 


当事者団体には説明があったのかも知れませんが(事実は知りません)、少なくとも私個人の所にはなんの通知、連絡もきておりません。

 

以上、私自身に関わる事項のみを記載いたしましたが、通所施設・入所施設・グループホーム等々でも、問題は山積です。

全てのサービスが公費から賄われていることも充分認識しておりますが、当事者になんの説明もなされぬままに、負担増・サービスの削減・低下につながるものを容認する訳にはいきません。

 

どうか、現場の実態を精査され、神奈川県、川崎市の福祉が誇れるものとなるようにご尽力いただけるよう、ここに切望いたします。